未来写真
柚葉りつき様
ある朝、直江の家に1通の手紙が届いた。
宛先も、宛名も書かれていない手紙を不思議に思いながら、そっとあけてみると、1枚の写真が入っていた。
その写真には、家の外から窓を通して撮ったらしく、机をはさんでご飯を食べている2人が小さく写されていた。
2人の片方は、自分自身だとすぐ分かった。
しかも、よく見れば、写真に写っている家は自分の家ではないか!
「誰かの悪戯だろうか?」直江は、考えてみたのだが、結局分からなかった。
写真に写っているもう1人は..と考えてみたが、昔から、料理の出来ない直江は、食事は外食か出前ですませてきたのだ。
最近、家で一緒に食べた人などいないのだが..思って、もう一度、写真をみた直江は、おかしな点に気が付いた。
それは、左下に小さく書かれている撮影日だった。
その日付は...未来の日付になっていたのだ。
もしかしたら、カメラの日付を間違えて設定したのかもしれない...そう思った直江は、
そんなに気にも留めなかった。
そして、写真を元々の入っていた封筒の中に戻すと、部屋の引き出しに直しておいた。
次の朝、朝刊を取るために、ポストを開け、新聞を取り出した時、直江の足元に何かが落ちた。
直江は、拾い上げて手紙を見ると、それは、昨日と同じ封筒だった。
家に戻った直江は、新聞を机に置くと、まず封筒を開けた。
すると、やはり1枚の写真が入っていた。
今日の写真は、手をつないだ2人の手がアップで写っていた。
直江は、その片方の手に見覚えがあった。見比べて見て、それは確信に変わった。
その手は、直江自身の手だった。
しかし、写真に写っている左手の薬指には、指輪がはめてあった。もちろん、今はつけていない指輪である。
写真に写っている手は、自分自身の手なのに、見覚えのない指輪をはめている。
直江には、この写真の送り主が何のために、この写真を送ってきたのか分からなかった。
昨日のは、小さすぎるし、今日のは、アップすぎる...と少し苛立ちながらも、写真を見ていると、また日付がおかしい事に気付いた。
また、未来の日付になっているのだ。しかも、今日の写真は、昨日届いた写真より、日付が1日戻っているのだ。
「偶然だろうか?この日付にも、何か理由があるんだろうろうか?」昨日から、疑問ばかりが増えていった。
それから毎日届くようになった封筒を、誰が届けているのか知りたくなった直江は、1日中ポストを見張っておく事にしてみた。
すると、数時間ポストを見ていた直江の耳に、パタン・・とポストに何かが投函された音が聞こえた。ポストを開けてみると、中に1通の封筒が入っていた。
音が聞こえた時、誰もポストの近くを通りはしなかった。直江が見ていたのだから...。
不思議に思った直江は、次の日もポスト見張っておくことに決めた。
次の日...
賢い直江である。今度は、ポストを開けたままにして、玄関先で見張って見た。
すると、何時間たっても封筒が送られてこないのだ。
やはり、悪戯なのか...と思い、部屋に戻って見ると、直江の行動を嘲り笑うかのように、机の上に1通の封筒があるのである
直江は、ずっと玄関先にいたのだから、誰かが家に入ってきて気付かない事は、有り得ないのである。
「やっと分かったような気がします。きっとこの写真の人が運命の人なのですね」
少し考え込んだ直江は、誰に聞くでもなく1人呟いて、少し嬉しそうに微笑んだ。
それからは、毎日届くようになった封筒は、直江にとって楽しみになりつつあった。
どここらともなく現れる封筒...。
開けると、必ず1枚の写真が入っている。
中に入っている写真は、日を追うごとに相手が分かるようになってきた。
そして、3ヵ月後にはどうやら、顔立ちまでは、はっきり分からないが、相手は、青年らしいということが分かった。
しかし、直江にとって、相手が男だという事は、全然気にならなかった。運命の人なのだから...。
そして、未来の日付の写真は、カウントダウンしているかのように、毎日毎日規則正しく
1日ずつ日付が戻っていくのだ。
そして、いつの間にか直江は、確信していた。
その写真に記された日付と、現実の日付が一致した時、彼に会えるのだと...。
そして、不思議な封筒が届き始めて半年...
あと1日で写真に記された日付と、現実の日付が一致するのである。
どれだけこの日を待ち望んだだろう。
長かった半年、送られてきた写真はもう、200枚近くなっている。
最近は、2人の寝顔を写したものや、デート中らしい所を撮った写真までもが送られて来るようになっていた。
直江は、その写真をすべて並べながら、写真に写っている青年を愛しそうに見つめた。
幸せそうに、200枚近くある写真を一枚一枚見つめている直江は、今夜は眠れそうになかった。
運命の人と会える日...
朝早くから、出かけた直江は、道を歩いていた。
いつもは、車なのだが、今日は、歩くことにした。もし、車に乗っていて青年と出会えなかったら...と思ったのかもしれない。
運命の人なのだったら、何をしてようと出会えるはずなのだが...気分が大切である。
そして、ついにその時がやってきた。
駅の前を通った時、見知った顔立ちの青年がこちらに向かって歩いてきた。
ふと、直江は思った。もしかしたら、相手の青年は、自分を知らないかもしれない...と。
しかし、そんな事は、考えていられない。
声をかけなければ...彼が通り過ぎてしまう。
「あの...」
なんとも情けない声で声をかけてみた。
「あ、あんた!!!」
青年は、どうやら直江を知っていたようである。
直江は、ほっ..と胸を撫で下ろした。
「時間が大丈夫でしたら、食事でもして、お話しませんか?」
と今までに見たことのないような極上の笑みで食事に誘ってみた。
「時間大丈夫だけど......」
言葉を濁らせてしまったが、何が言いたいか分かった直江は、即座に答えた。
「お金の心配は要りませんよ?」
「えっ‥でも...悪いし...」
「私が誘ってるんですから、良いんですよ」
「じゃあ......ありがとうございます」
「いいえ。今日は、残念ながら、車じゃないんです。
だから、この近くの店に行きましょう。」
そう言って、直江が青年をエスコートするように歩いていった。
青年は、気付いていないかもしれないが...
店でご飯を食べながら、お互いの自己紹介から始まった会話だが、今は、初対面ではないく、むしろ、恋人の雰囲気をかもし出している2人である。
高耶の話を聞いていると、どうやら同じころから、高耶の所にも封筒が届くようになったらしい。
「封筒...誰が送って来たんでしょうね。結局、犯人が‥この場合、愛キューピットの方が正しいかもしれませんが...分からず終いだったんです。高耶さんに会えたので、
もう、誰でも良いんですが...」
高耶は、直江が愛のキューピットと言ったのが相当ツボにはまったらしく、笑いをかみ殺しながら、答えた。
「そうだな、オレも気になってたんだけど。」
そんな会話、嬉しそうに聞いていたのが、一連の犯人..いや、新米ほやほやの、
愛のキューピットの美弥である。
愛のキューピットになるために、美弥に出された最終試験課題は、高耶と直江を恋人にする事だったのだ。
2人が出会うまでは、美弥は、恋人にするために助ける事が出来たが、2人が会ってからは、美弥が助ける事は出来ない。そう決められているのだ。だから、最後は結局2人の相性が試されるのだ。
こうして、直江と高耶は、恋人同士になり、美弥も、最終試験を合格し、晴れて憧れの
愛のキューピットになれたのである...。
1日で、恋人同士になった2人は、仲良く直江の家に帰り、リビングに歩いて行くと、机の上に、見慣れた封筒と小さな紫のチューリップの花束が届けられていた。
直江が、その封筒を持って、そっと開けると写真が入っていた。
そこには、今までのどの写真よりも幸せそうな2人の笑顔が写っていた。
小さな花束には、メッセージカードが添えられて、[Congratulation!!]ときれいな字で書かれている。
紫のチューリップの花言葉は、[永遠の愛情]
美弥からの、2人への祝福の気持ちを込めての贈り物...。
End
1万hit越えの祝福を込めて...。v
2004.06.13 |
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